国連委発言の2日後に
「遺憾」報じた朝日新聞
慰安婦誤報自社への
言及には触れず
【歴史戦 第15部 日韓合意の波紋(上)】
「国連委発言で慰安婦報道言及 本社、外務省に申し入れ」
19日付朝日新聞朝刊4面にこんな見出しが掲載された。朝日新聞東京本社報道局が18日に外務省に「遺憾である」との文書を提出したことを紹介する記事だ。
朝日が「遺憾」としたのは、日本政府代表の外務審議官、杉山晋輔がジュネーブで開かれた16日の国連女子差別撤廃委員会で、慰安婦問題に関し朝日報道が「国際社会に大きな影響を与えた」と発言したこと。朝日は「根拠を示さない発言」と断じた。
杉山はこの場で4回にわたり朝日に言及した。
「強制連行説は慰安婦狩りに関わったとする吉田清治(故人)による虚偽の事実の捏造(ねつぞう)で、朝日新聞社により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず、国際社会にも大きな影響を与えた」
「朝日新聞自身も累次にわたり記事を掲載し事実関係の誤りを認め、正式に読者に謝罪した」
「朝日新聞は平成26年8月5日付の記事で20万人の数字のもとになったのは女子挺身(ていしん)隊と慰安婦を誤って混同したことにあると自ら認めている」
日本政府が朝日報道に関して国連の場で説明するのは初めてだった。朝日新聞記者は現地などで取材し17、18両日付朝刊で同委員会について報道したが、自社に関する杉山の発言については一切触れなかった。
朝日は申し入れ書で国際的な影響については、慰安婦報道を検証した第三者委員会でも見解が分かれたと説明。杉山発言の「根拠が示されなかった」と主張した。慰安婦「20万人」については「女子挺身隊と慰安婦の混同がもとになったと報じていない」とした。
慰安婦問題で朝日報道を批判してきた有識者からなる独立検証委員会は、朝日報道が米国と韓国のメディアに多大な影響を与えたことを実証している。副委員長で東京基督教大教授の西岡力は「吉田清治を世に出したのは朝日新聞だ。朝日は第三者委員会で見解が分かれたというが、それは委員会の中でも影響があると認めた人がいたということではないか」と指摘。朝日の姿勢をこう批判した。
「朝日は外務省に申し入れたことで初めて自社の責任に言及した杉山発言を報じた。ファクト(事実)を報じる新聞の役割を果たしていない。(誤報を)本当に反省しているのなら、自ら国際社会に発信すべきではないか」
朝日新聞社広報部は産経新聞の問い合わせに「記事に書いてある以上はお答えできない」と回答した。
× × ×
昨年12月末、日韓両政府は慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的に解決する」と合意。国連を含む国際社会でお互いに非難、批判を控えると申し合わせた。このことは女子差別撤廃委員会に対する日本政府の回答にも影響を与えた。慰安婦問題を広げた朝日などに力点が置かれるようになったのだ。政府高官はこう強調した。
「朝日に責任があるのは明白だと国際社会に知ってもらう必要がある。朝日に(日本政府が拠出する10億円の半分の)5億円を出してもらいたいぐらいだ」
× × ×
日本政府は昨年8月、国連女子差別撤廃委員会から慰安婦問題に関する質問を受けた。それ以降、回答内容について検討作業を続け当初は11月中旬に提出する方針だった。政府関係者によるとその頃までに準備したのは「A4用紙10枚以上で、完璧な内容だった」。
回答案は慰安婦問題が政治問題化した経緯を詳述した。慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話作成時の事務方トップ、元官房副長官、石原信雄が26年2月の衆院予算委員会で軍や官憲による強制的な女性募集を裏付ける客観的資料がないと証言したことに言及。「慰安婦狩り」を証言した吉田清治や朝日新聞についても説明した。
ただ、分量が多く簡潔にする必要があると練り直した。それでも「誤った事実関係が(国連人権委員会に提出された)クマラスワミ報告書における事実に反する記述や人権諸条約の委員会による懸念表明や勧告の有力な根拠となっているのは大変残念である」との踏み込んだ表現は残った。
(以下略)
韓国系団体が売春婦の
「真実」隠す
慰安婦プロパガンダ冊子
【歴史戦 第15部 日韓合意の波紋(中)】
国連などで韓国系によって配布されてきた英語の小冊子がある。韓国政府系の反日政策研究・推進機関「東北アジア歴史財団」がまとめた『日本軍“慰安婦”の真実』。全ページカラー刷りの立派な装丁だ。
その中に、ビルマ(現ミャンマー)で米軍が捕らえた朝鮮人慰安婦からの聞き取り調査内容をまとめた報告書(1944年作成)の写真が掲載されている。
この報告書は「慰安婦イコール性奴隷」説を否定する“証拠”として扱われることが多い。なぜそんな資料が韓国系団体の作成した小冊子に掲載されたのか。
報告書には「慰安婦は売春婦もしくは(兵士のためについてくる)プロのキャンプフォロワー以外の何者でもない…」と明記されているが、よく見ると「売春婦」であることを記述した文章の上に米兵が慰安婦を聴取する場面の写真が置かれている。
「真実」を告発する小冊子なのに韓国系団体にとって都合の悪い部分は隠されていたわけだ。
平成4(92)年1月11日付の朝日新聞1面に掲載された「慰安所軍関与示す資料」の写真も掲載。「中央大学教授の吉見義明は、日本軍が慰安婦募集に直接関与していたことを示す文書を発見した」と英語で説明している。しかし、吉見が発見したという文書は実際には悪質な業者には気をつけろという通達で、少なくとも、強制連行とは何の関係もない。
慰安婦問題についてそれほど知識のない外国人は“工作”に気づくはずもないし、立派な小冊子を受け取れば書かれている内容を事実であると受け止めるのは想像に難くない。
小冊子を入手したのは近現代史研究家の細谷清。昨年3月にニューヨークで開催された女性の地位委員会で韓国側が開催した行事で受け取った。
これに対抗して、細谷と反日活動の阻止を目指す民間グループ「なでしこアクション」代表の山本優美子は「From misunderstandings to SOLUTION(誤解から解決に向けて)」と題するカラー刷りの英語の小冊子を作成。今月中旬にジュネーブで開かれた国連女子差別撤廃委員会で委員に配布した。
東北アジア歴史財団の小冊子と同じサイズで、「慰安婦狩り」の捏造などを写真やデータ入りで説明した。「慰安婦問題の真実を外国の人に少しでも理解してもらいたい」と山本は話す。
× × ×
ジュネーブの国連欧州本部で16日に開かれた女子差別撤廃委員会の対日審査。会議の合間に慰安婦問題を担当する中国出身の女性委員、鄒暁巧と懇談する男性の姿があった。男性は15日に行われた委員会と非政府組織(NGO)との非公式会合で注目された人物だ。
「キム」と名乗る男性は英語で「戦時性奴隷の被害者に代わって何年たっても日本が包括的な解決を図らないことに深刻な懸念を表明する」と切り出し、「委員会には、遅くなる前に被害者に正義をもたらすよう強く求める」と訴えた。
翌日、対日審査の会場で「キム」に産経新聞の名刺を差し出した。渋々交換に応じた名刺には手書きで「KINAM KIM」とあった。韓国人の弁護士という。所属は「民主社会のための弁護士集団(MINBYUN)」とある。この団体は親北朝鮮系のNGOとして知られる。2000年の女性国際戦犯法廷で昭和天皇を有罪とした検事役を務めた現ソウル市長、朴元淳は創設メンバーだ。
キムは「被害者の声を伝える必要がある」と繰り返した。「強制連行はなかった」と主張する日本のNGOの発言をどう思うかと聞くと、苦々しげな表情でこう返答した。
「彼らは言論の自由を行使しているんだろう。でもこれはゲームじゃない」× × ×
非公式会合は日本のほかアイスランド、スウェーデン、モンゴルの4カ国が対象だったが会場はほぼ日本人で埋まった。大半は左派系の日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)の約80人だった。
(以下略)
「日本に外交戦で負けた」
韓国社会にくすぶる不満を
晴らすかのような出来事が…
【歴史戦 第15部 日韓合意の波紋(下)】
「韓国内では慰安婦をめぐる合意は、日本に外交戦で負けたと認識されている。その不満をぶつけ、留飲を下げる対象が必要なのだ」
韓国のある弁護士は慰安婦問題をめぐる責任追及が、これまでとは違う形で韓国内で激しさを増している理由をこう説明する。日本政府との間で昨年12月28日に「合意」したことによって当面、韓国政府は元慰安婦への謝罪や賠償を対日要求の前面に据えにくくなったからだ。
韓国社会にくすぶる不完全燃焼感を晴らすかのような出来事が今月、起きた。
慰安婦問題を扱った学術書「帝国の慰安婦」(日本語版は朝日新聞出版から刊行)で、元慰安婦らの名誉を毀損したとして刑事・民事で法的責任を問われている世宗大教授の朴裕河に対し、韓国の裁判所が大学から支払われる給料の差し押さえを決めたのだ。
朴に科された賠償金は9000万ウォン(約820万円)。今後、賠償の満額まで給与の一部を徴収されることになる。
差し押さえ決定は、先月13日にソウル東部地裁の民事部が下した賠償支払い命令を受けたもので、判決後に原告側が朴と勤務先の学校法人を対象に申し立てていた。朴は「全く予想していなかった」と述べ、何らかの圧力がかけられている状況を示唆した。
「告発は、まだ学生であった若者らによる荒く粗悪な読解によるものだった」
朴は昨年12月16日、民事訴訟の最終意見陳述でこう述べ、誤読によって提訴され、裁判が進行してきたことを訴えた。さらにこの問題の構図は自身と元慰安婦の対決ではなく「慰安婦問題にかかわる運動家・学者と私の、考えの闘いである」と強調したが、聞き入れられることはなかった。
刑事で在宅起訴され、民事の1審で敗訴した上、給料の差し押さえまで受けた朴。自らを取り巻く状況についてフェイスブックで、差し押さえを求めた元慰安婦支援施設「ナヌムの家」の目的が「私の名誉をいま以上に傷つけることにあるようだ」と言及。今後も厳しいものになり、追い詰められていくという認識を示した。
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朴は昨年11月、在宅起訴され、先月20日に初公判を迎えた。韓国の裁判所は「国民情緒」という社会のムードに迎合して証拠を評価し、判決を下す傾向が強い。
主要各紙は朴の著書について「日本政府に法的責任があると思わない、という見解は修正していない」(12月8日、東亜日報電子版)などと、日本の法的責任を「ある」とする意見以外に受け入れる余地がないことを示している。
韓国メディアは「帝国の慰安婦」問題をめぐる日米両国の見方も伝えているが「学問の自由への弾圧」との正面からの批判はなく、功罪の論を引用した「両論併記」にとどめている。
ネットでは著作を冷静に読み込んだとみられる人々が朴を支持する書き込みも見られるが、多数意見となるか不透明だ。
「帝国の慰安婦」をめぐる民事・刑事の法廷はこうした“世論”をにらみながら継続されることになるが、それは日本との外交戦で敗れたと不満を抱く人々の「意識の向かう先」を抜きに語ることはできない。
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2月17日昼、ソウルの日本大使館前では慰安婦問題に関する反日活動が行われた。北朝鮮とも連携する左派反日団体「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」が1992年から毎週水曜に実施、「水曜集会」と呼ばれる活動だ。韓国メディアによると、この日は挺対協と元慰安婦、学生ら約300人が1時間以上にわたり大型拡声器を持ち込んで「謝罪せよ!」「法的責任を認めよ!」と騒いだ。
外国公館の静粛を妨げるデモや集会は違法だが、主催者側は「記者会見」と主張。韓国当局もこれを受け入れ24年間、取り締まらずに放置してきた。だがその様相は昨年12月28日の慰安婦問題をめぐる日韓合意後、「明らかに変わった」(在韓日本大使館筋)。
1月6日には大統領、朴槿恵を支持する保守系団体が「合意を認めろ!」と挺対協側に迫り、小競り合いとなった。警察も「無届け集会」を行った学生を刑事事件として捜査している。
韓国の日韓外交専門家は「慰安婦問題での日本糾弾は聖域化されており、異を唱えるなど聞いたことがなかった」と指摘。中央日報(18日、電子版)は、慰安婦問題をめぐる韓国の「冷めた世論」を反映したものだと伝えた。
(以下略)