宿命のライバル・ベルリンで
前代未聞の事件が発生
大企業の社長がライバル会社の商品を店頭で壊して回った――。
こんなにわかに信じがたい話が本当に起きたのか? これだけでも大変な話なのに、当事者がLG電子の社長で、サムスン電子がこれに怒って検察に捜査を依頼したということで、韓国の産業界での大きな話題になっている。
一体何が起きたのか?
「事件」が起きたのは、欧州最大の家電見本市「国際コンシューマ・エレクトロニクス展(IFA)2014」が開催されたドイツのベルリンだった。
韓国メディアによると、開幕直前の現地時間9月3日、ベルリンの家電量販店に姿を見せたLG電子の家電部門社長など同社一行が、サムスン電子のドラム式洗濯機「クリスタルブルー」を詳しく見て回った。
この際、ドアを壊したという。LG一行は、他の量販店でも同じようにサムスン電子の同じ洗濯機を壊したという。被害に遭った洗濯機は合わせて7台にも達した。
ドラム式洗濯機のドアはそう簡単に壊れず、サムスン電子は「ドアを開いたあとで、ドアに体重をかけて押して故意に壊した」と説明している。
ある量販店では、店員が「破壊行為」に気づき、警察に通報したため、「壊れた」4台の代金を支払おうとしたという。
サムスン電子は、防犯カメラをチェックした上で、LG社長一行が「故意に破壊した」として激怒。LG電子の社長の実名とともにこれを公表、さらに韓国の検察に捜査を依頼した。
サムスン電子は、破壊された洗濯機を空輸して検察に証拠物として提出する。
「被害者」であるサムスン電子はかんかんだ。世界最大規模の家電展示会が開かれたベルリンの有名量販店で、次々と洗濯機の看板商品が壊されたのだから無理もない。
一方のLG電子は、防犯カメラの画像を突きつけられたこともあり、一部事実は認めている。社長一行が問題の量販店に行ってサムスン電子の洗濯機などを視察した。
その上で、「この際、日常的な商品チェックをしただけで、サムスン電子がこれを誇張している」と説明した。
サムスンの怒りに油を注いだLGのコメント
さらに、サムスン電子の神経を逆なでするコメントを韓国メディアに出している。
「海外で競争相手の商品をチェックすることは当社でなくとも、当然のことだ。当日も、洗濯機をはじめとしていろいろな企業の商品を見たが、特定の会社の洗濯機は本体とドアをつなぐ部分が弱かったようだ」(「毎日経済新聞」報道)
これではサムスン電子が怒り心頭にならないはずもない。
真相はもちろん分からない。検察は捜査に着手する方向で、LG電子も捜査に協力する姿勢だ。
前代未聞の「破壊劇」は検察捜査の手に委ねられることになった。
韓国の産業界では、この「ベルリン事件」にもちろんびっくり仰天だが、一方で、「ああ、またか」という反応もある。
宿命のライバル
サムスン電子とLG電子は、韓国で長年の宿命のライバルだ。
半導体とスマートフォンの大躍進で、企業規模や利益額から見れば、サムスン電子が圧倒的に大きな存在になってしまったが、今でもあちこちで衝突を繰り返している。
「朝鮮日報」によると、2年前には冷蔵庫を巡って告訴合戦が起きたという。
こういう話だ。動画サイトの「ユーチューブ」とサムスン電子のブログに「冷蔵庫の容量の不都合な真実」という動画がアップされた。動画の中の2人の男が2台の冷蔵庫に水を入れる。左側は「サムスン 857リットル」、右側には「他社870リットル」という字幕。誰が見てもLG電子製だった。容量が少ないはずのサムスンの冷蔵庫にたくさん水が入った。
LG電子は、実際には使用しないところまで水が入っているなどとして激怒した。LG電子はサムスン電子が動画を流して会社のイメージを傷つけたとして、100億ウォン(1円=10ウォン)の損害賠償訴訟を起こした。サムスン電子も500億ウォン規模の訴訟で対抗した。その後、両社とも訴訟を取り下げたが、こういう話は多い。
2013年には、サムスン電子が「国内エアコン市場シェア1位」という広告を出したことにLG電子が反発し、韓国の放送業者の団体に異議申し立てを出した。
特に、家電分野では、いまだに両社のライバル意識は強い。
サムスン電子は、1980年代以降半導体事業で急成長してLG電子に一気に差をつけた。LGグループも半導体メモリー事業に進出したが、1990年代末のIMF危機を契機に政府の方針で現代グループに半導体事業を売却した。
家電は譲れないLG
LGにとっては無念の選択だったが、それだけに家電事業、特に、エアコンや洗濯機、冷蔵庫では負けられないという意識が強い。
サムスン電子にとっては、家電分野でLG電子に勝ち切れていないことが大きな不満だ。
韓国の産業界では、両社の2人の社長のライバル関係にも注目が集まっている。
今回問題になったLG電子の家電部門の社長は1956年生まれで、高校卒業後に入社。以後、40年近くを洗濯機事業一筋で昇格を重ねた人物だ。
猛烈ぶりは有名で、家電部門のトップになっても「洗濯機だけはサムスンに負けられない!」との意欲は強かったようだ。
一方のサムスン電子の家電部門の社長(1953年生)は、テレビ事業を長年担当した。華々しい社内経歴を買われて、サムスン電子の中では時に「お荷物」とさえ呼ばれた家電事業の強化のために同部門社長になった。
2人にとっても絶対に負けられない戦いなのだ。
それにしても、だ。
創業者同郷で同じ小学校
サムスングループの創業者である李秉(イ・ビョンチョル=1910年生、故人)氏とLGグループの具仁会(ク・インヒ=1907年生、故人)氏は韓国南西部の慶尚南道の同郷で、同じ小学校に通った。
この2人が、朝鮮戦争で荒廃した韓国で企業人として頭角を現し、何の因縁か、家電事業で激突することになったのだ。
具仁会氏は1950年代末に金星社(現在のLG電子)を設立し、国産初のラジオ、白黒テレビ、カラーテレビを発売した。約10年後に李秉氏はサムスン電子を設立し、熾烈な争いが始まった。
以後40年間、両社はともに切磋琢磨しながら急成長したのだから、ライバル関係は両社にとってプラスの効果もあった。それにしても今回の事件は、両社にとってマイナスのイメージを残しかねないマンガのような内容である。
サムスンにとってIFAは鬼門?
サムスン電子にとっては、IFAは因縁の行事になった。2012年には、展示会に出品しようとした有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビ2台が輸送中になくなる事故が起きた(2012年9月14日「ベルリンで消えたサムスンの有機ELテレビ」参照)。
世界最大の電機メーカーに浮上したサムスン電子に対する牽制がそれだけ強くなったことの裏返しでもある。
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