菅直人政権時の無為無策を
繰り返してはいけない
増税は論外、公共投資を粛々と
【お金は知っている】
九州の熊本・阿蘇地方の地下奥深くから入った亀裂は四国、本州へと伸びる兆候を示している。この美しい国土は荒々しい地球の営みの賜物(たまもの)である現実を改めて知らされた。(夕刊フジ)
であれば、なおさらのこと、わが国では人々の安全と利便を確保するインフラの修復と再整備が世界でも抜きんでて重要だ。その役割は主として政府が受け持つ。
グラフは1995年1月の阪神淡路大震災と2011年3月の東日本大震災以降の公共投資と国内総生産(GDP)の前年比実質増減率を比較しながら推移を追っている。これをみると、当時の政権がどのくらい迅速に震災後の復旧に当たったか、成果はどうか、その結果、景気はどうなったかの見当がつく。
阪神淡路大震災当時は自民、社会、新党さきがけの連立による村山富市(社会党出身)政権で、震災当初の対応は大きくもたついた。しかし、震災の3カ月以降はインフラ復興・復旧のための公共投資が着々と進められるようになった。公共投資による経済への波及効果で景気のほうは下支えされていく。
対照的なのが東日本大震災時である。民主党の菅直人政権は4月に有識者による「復興構想会議」という首相の諮問機関を立ち上げたが、主要議題は復興のための財源をどうするかだ。同会議は財務官僚に牛耳られ、増税が真っ先に話し合われた。
これに合わせて、財務省の受けの良い東大の伊藤元重、伊藤隆敏両教授が復興財源のための消費税増税を提唱し、日経新聞の「経済教室」欄を通じて主だった大学教授から賛同の署名を集めた。民主党政権は復興財源を所得税・法人税増税、そして消費税増税構想を12年の3党合意へと結実させていく。
肝心の公共投資はどうか。遅々として進まず、わずかに伸びたのは翌年になってからだが、それも一時的だった。「福島原発事故処理に手間取った」とか、「急激な復旧工事のために人手不足になった」などの言い訳はあるだろうが、データが示すのは公共投資の驚くべき停滞ぶりである。戦後未曾有の大災厄に対し政権の無為無策はおろか、政権が大震災後の大災害を引き起こしたと批判されても仕方あるまい。
もともと「コンクリートから人へ」という触れ込みで政権を奪取した民主党は公共投資をネガティブにとらえ、その削減を財務官僚に丸投げしていた。財務官僚は渡りに船とばかり、菅政権、続いて野田佳彦政権を洗脳し、増税と緊縮路線に乗せた。経済が停滞するのは当たり前で、実質ゼロ成長が続いていく。
今回の熊本大震災では、以上の失敗の教訓を安倍晋三政権がどう生かすかである。危機対応はさすがに素早いし、自衛隊の出動、米軍の協力とぬかりない。
財務官僚はどうか。非常識にも、復興財源のためにも予定通り消費税増税せよという世論誘導を仕掛けるのだろうか。今回はさすがに御用学者や御用メディアは沈黙しているのだが。(産経新聞特別記者・田村秀男)
消費税増税による悪影響はリーマン
震災をはるかに上回っている
【お金は知っている】
来年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げについて。安倍晋三首相は「リーマン・ショックまたは東日本大震災級の災厄でも起きない限り、予定通り引き上げる」と再三再四にわたって明言している。(夕刊フジ)
すると、財務省や与党の増税派は、今の経済動向からみて、首相が基準とするほどの衝撃を日本経済は受けていないと断じ、安倍首相周辺もその見方にほぼ同意せざるをえなくなっている。
増税中止を求める首相周辺では「首相の発言はこのまま増税すれば、今後リーマン級の不況を招き入れるという意味だ」という新解釈で乗り切ろうと苦心する有り様だ。
実際にはどうか。リーマン後、あるいは東日本大震災後に比べて、2014年4月以降の経済の落ち込みは軽いのだろうか。その度合いを図る経済データはいくつかあるだろうが、最もふさわしいのは国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費の動向だ。
そこで内閣府が毎月発表している消費総合指数を取り上げてみた。消費を測る政府の調査は、需要側の家計調査をもとにしたGDP統計の民間最終消費支出がある。また供給側ではデパートやスーパーの販売統計がある。需要と供給の両サイドを総合化した、最も現実に合った指数が消費総合指数だと、内閣府エコノミストは自負している。
グラフを見よう。リーマン・ショック、東日本大震災、そして8%消費税率引き上げのそれぞれの後の状況を比較すると、消費に最も激しく打撃を与えたのは消費税増税であることが一目瞭然だ。リーマン時の場合9カ月後には消費水準がリーマン前に回復した。東日本大震災時では5カ月後に震災前の水準に回復した。
これに対し、14年4月の消費税増税の後2年たったが、消費水準は落ち込んだままだ。今年1月は若干回復したが、12年8月並みの水準である。しかも、消費税増税直後の落ち込み度合いはきわめて激しい。
さらに、1997年4月の消費税率5%への引き上げ後と比べると、やはり今回のほうの後遺症がはるかに重い。97年増税では翌年秋には消費総合指数が上向いている。
消費税増税ショックはリーマン・ショックや東日本大震災をはるかにしのぐとみなすべきなのだ。このまま、来年4月に予定通り増税すべきだと主張する財務官僚や与党関係者、あるいはメディアはまるで、日本経済に自殺を迫っているようなものである。
不思議なのはリーマン・ショック級ではない、という政府の見方である。消費総合指数は月例経済報告に含まれ、首相以下閣僚は全員が目を通しているはずである。内閣府は首相らに、ことの深刻さを報告しないのだろうか。
安倍首相はきっぱりと、「先の消費税増税はリーマン・ショックまたは東日本大震災級の衝撃をもたらしている。再増税でその誤りを繰り返すわけにいかない」と早々と、消費税増税の凍結を宣言すべきだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)
「日本の財政は最悪」というデマは
いい加減にせい!
GDP比では米国と同一水準
【お金は知っている】
日銀による異次元緩和政策は、まる3年経ったが、無力だという批判が多い。筆者はこれに対して、効力をつぶしているのは消費税増税・財政支出削減であり、政府が緊縮財政政策を止めると金融緩和の威力がよみがえると主張している。(夕刊フジ)
安倍晋三首相周辺は来年4月に予定されている消費税率の10%の引き上げ凍結と大型補正予算編成の検討を急いでいる。増税と緊縮財政路線にしがみつく財務省、同省ご用達の学者と日経新聞、朝日新聞などのメディアはこれに対して、今回ばかりはなぜか声が小さい。日経に至っては、社説で「増税延期の是非慎重に判断を」(3月19日付朝刊)と弱々しい。代わりに、日経の子会社となった英フィナンシャル・タイムズ紙が31日付の社説で「安倍首相は消費増税を見送るべきだ」とずばり正論を展開した。子のほうが親より正しいことはよくあるが、その場合は潔く子に従うのが常識というものだ。
「日本の財政は先進国では最悪で、国民1人当たり830万円の借金を背負っている」と日経などが書き続ける。デマもいい加減にせいと、拙論はこれが詐欺論法であることを7、8年前から指摘している。国は国債発行などで大半を日本国民から借りているのだから、国民は直接、間接に830万円の金融資産を持っているわけだ。相手は有権者でもある債権者が監視する自国政府なのだから、まことに安心できる優良資産である。党の指令一つで借金を踏み倒しかねないどこかの国とは大違いだ。
最近は拙論の国債=国民資産論に同調する論者が増えているのだが、いまだに財務官僚も御用メディアも虚偽情報を流し続けている。嘘つきは恐ろしい。
さて、グラフは最近公表された日米の政府財務の貸借対照表(日本は2015年3月末まで、米国は15年9月末までの年度)である。日本の政府債務は総額で見れば、確かに国内総生産(GDP)の2倍を超すが、日本特有の事情がある。戦中、戦後を通じて、日本はよくも悪くも経済活動における政府の役割が大きい。一般会計・特別会計予算を合わせるとGDPの約5割を占める。いわば「大きな政府」なのだから、負債が多ければ資産が多いのは当たり前だ。
問題は負債がどの程度まで資産を上回っているかという純負債である。GDP比ではちょうど米国と同一水準である。日本が債務危機にあると騒ぐ向きは米国に対してもそう批判すべきだろう。
日本ではもう一つ、「国の連結財務」も公表されている。それは政府と政府系機関である独立行政法人を併せた貸借対照表で、その純負債のGDP比率は90%と、グンと軽くなる。要するに官僚は優良資産を独立行政法人に移して、心地よい天下り先を確保しているわけだ。財務省もこれ以上、債務が大変だと騒ぐなら、資産を処分して債務を減らせばよい。そうすると天下り先がなくなるので、まずいというわけだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)