スカッとしないぞ「天下の文春」
屋山太郎(政治評論家)
はっきり言って、今回の週刊文春のやり方は感心しない。甘利氏の疑惑を告発した「ネタ元」とタッグを組んで写真を撮ったり、録音したりするとか、はじめから甘利氏を罠に嵌めて「事件」にしてやろうという魂胆が見え見えだ。こんなのは、オーソドックスな雑誌記者のやり方じゃないし、何度も言うけど文春らしくない。
もちろん、安倍政権の最重要閣僚を辞任に追い込むぐらいの大スクープなんだけど、なぜかスカッとしない。それは彼らが真っ向勝負をしていないからに他ならない。こんな「禁じ手」まで使ってしまうようでは、もうジャーナリズムなんてあったもんじゃない。かつて、立花隆が月刊誌「文藝春秋」で田中角栄の金脈を暴いたときは、誰もが文句のつけようのない完璧な「調査報道」だった。私はね、どうせ政治家のスキャンダルを暴くんなら、ああいうスカッとした調査報道をしてもらいたいと常々思っている。「天下の文春」には特にそれを期待していたしね。
それはさておき、今回のスキャンダルは、野党にとってはおいしいネタではあったよね。国会で安倍政権を責める材料が何もないだろうから、本筋のTPP交渉とかで議論もできないだろうし、甘利さんのスキャンダルをことさら追及していた。もうこうなるときりがなくなる。ところが、甘利さんは弁護士に調査を依頼して、あっさり辞任を表明した。ぱっと身を引いちゃったもんだから、野党にしてみれば肩透かしをくらったみたいなもんだね。こうなると、野党の方がひっくり返ってしまう。いくら野党が反発したところで、疑惑の当事者が辞めちゃったものは仕方がないし、国会に呼ぶわけにだっていかない。そう考えると、甘利さんはうまく切り抜けたと思う。
甘利さんはTPP交渉を推し進めたが、もっと大きな視野で見ればTPPによって日本の市場は確実に増える。例えば、1955年に日本はGATT(関税及び貿易に関する一般協定)に加盟したが、その時は市場が広がるといって日本中が歓迎した。これは私の個人的な見解だけど、今回のTPPによって、世界のGDPの4割を占める巨大な経済圏ができるっていうのに「反対」というのは違うと思う。甘利さんはフロマン(米通商代表部代表)に怒鳴られたこともあったが、アベノミクスの柱でもあるし、国のためとの思いで必死になってやっていた。
私が記憶している限り、今回のような「禁じ手」を使ったスキャンダルは過去になかったのではないか。現金を手渡す時も用意周到に記者が録音や撮影をするなんて、こんな露骨なやり方はこれまでなかった。スキャンダルが発覚した当初、自民党内でも「ヤラセではないか?」という疑念の声が上がったのも無理はない。
金を受け取ればアウト
潮匡人(評論家、元3等陸佐)
甘利明・経済再生担当相が28日の会見で認めた通り、政治家というのは「脇が甘く」なればこうなるということです。甘利さんにすれば嵌められたという見方になるのかもしれないが、はっきり言って騙された方も悪い。それは戦争も軍隊も政治も同じ。そんな言い訳がまかり通るなら、これまでだって誰も大臣を辞める必要なんてなかった。もし、秘書のせいにしていたら一昨年、約3億円の虚偽記載で元秘書2人が有罪となって辞任した小渕優子さんとの違いは何だ、ということになる。甘利さんにはもはや、辞任以外の結論はなかった。
でも、「悪意」のある人が政治家を貶める目的で献金し、それをネタにしてマスコミに売り込んだスキャンダルが発覚すれば、必ず大臣を辞めなければいけないということになると、政治家はすべての献金者の素性を調べてからでないと、政治資金を受け取れないということになる。当たり前の話だが、すべての献金者の身元を調べるなんてことは、国会議員の事務所や政治家秘書の能力をはるかに超えていることで、事実上不可能です。ということは安倍総理であれ、嵌めようと思えばいつでも嵌められるっていうことです。
甘利さんは政治資金報告書に後日記載したとはいえ、大臣室と事務室でそれぞれ50万円ずつ直接もらっている。秘書が500万円もらって200万円しか申告せず、残りの300万円は全部遊興費に使ったということですから、普通なら収賄罪が成立します。少なくとも、500万円のケースについては政治資金規正法が守られていなかったわけですから、たとえ秘書が単独でやったにせよ、議員の責任が問われるのは当然のことです。こうなると、甘利さんが辞任しない限り、国会の審議も始まりませんし、参院選の日程も組めなくなる。6月1日までに通常国会が終わらなければ、国政運営は大変なことになる。結論は初めから甘利さんを本気で続投させるのか、やめていただくかの二つに一つしかなかった。
ただ、『週刊文春』の記事を読んだ人は誰もがおかしいと感じたと思いますが、なぜ甘利さんの会話が録音され、隠しカメラで撮られていたのか。政治家が何か悪いことをしたのがバレて、正義の『週刊文春』がスクープしたという構図とは全然違うことは誰でも分かる。どうしても、金を渡し文春にネタを売った告発した人物の側にきな臭さを感じる。『週刊文春』にしてみれば、大臣の首一つ取ったわけですから、週刊誌ジャーナリズムとしては「金星」です。ただ、問題なのはそれで今後こういうことが起きないのか? いや、きっとまた起きるでしょうという。与野党を問わず小選挙区の厳しい選挙を勝ち上がらなければならない国会議員にとって、同様な手法で「悪意」のある人がアクセスしてきたら、我が身を守るのは非常に難しいだろうということが、今回すべての政治家が学ぶべき教訓とも言えます。
実を言うと、私も2010年12月から2011年6月まで、宇都隆史参院議員の政策秘書を務めた経験がありますが、国会議員の周りに群がってくるのはすごく「変な人」が多いんです。まともな人や常識のある人は頻繁に事務所に来たりしません。議員会館の中を意味もなくうろうろする「政治ゴロ」と呼ばれる人たちがいる。おいしい話があれば、ガンガン食い込んでいって飯を食っているような連中がいっぱいいて、大体が筋の悪い人たちです。そういう人であっても、小選挙区を抱える国会議員は地元の選挙民だったら「胡散臭いやつだなあ…」と思いながらも、とりあえず大臣室に入れざるを得ないのが実情なんです。
花田紀凱の天下の暴論
ベッキー不倫事件についで、またまた『週刊文春』が大スクープだ。「実名告発 『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』」。政界大激震、安倍政権にも大きなダメージ。
甘利氏の収賄疑惑告発第1弾を報じた週刊文春
1月28日号の表紙
新谷学編集長が三ヶ月の"休養"を終えて復帰して、たて続けのこのスクープ。改めて雑誌における編集長の力を思い知らされた。
しかしこのスクープ、ちょっと気になる点がないでもない。
一つは告発した総務担当という一色武なる人物は実名を出しているが、会社名が匿名ということ。それと秘書とのやりとりを録音したり、毎回記録を残し、渡した現金のコピーを取るなどあまりに用意周到なこと。普通、ここまでやらないだろう。一色武なる人物の経歴が知りたい。もしかしたら、警察関係か。(企業の総務には警察関係者の天下りが多い)。
もう一つは、別件、外国人のビザ申請で清島健一公設第一秘書に20万円渡した時、『週刊文春』の記者を同行させて、写真を撮らせていること。勘ぐれば、そのシーンを撮らせるために、わざわざ金を渡したのではと勘ぐることもできる。
その辺りをライバルの『週刊新潮』が徹底取材してくれたら面白いのだが。
それともうひとつ。告発した一色武なる人物、S社とURのトラブルの仲介を、なぜ甘利氏の地元、大和の事務所にたのんだのかということだ。S社の本社は千葉県白井市。常識的に言って誰か議員に頼むとしたら、地元の議員に頼むのが自然だろう。それに総務担当という一色氏が名前を出しているのに社名だけ出さないというのも不思議だ。
テレビを見ていたら、テレビの記者がS社に取材に行くと、慌てた社員がけんもほろろ、何か触れてはいけないことのように取材を拒否していた。S社としては本当は告発を望んでいなかったのではないか、そんなことさえ思わせる異常な対応だった。
一色武という名は本名ではないなど、一色氏に関しては幾つかよからぬ情報も得ている。確認でき次第、また報告したい。(Yahoo!ニュース個人)
悪さは一人ではしない