「待機部屋」で一日を過ごす
三上さん、38歳。三上さんには家がない。
東京と埼玉でデリヘル(派遣型性風俗サービス)を展開する風俗店「池袋デッドボール」に勤めている。顧客から指名が入るまでの「待機部屋」が、三上さんの “自宅”だ。
繁華街の片隅にあるマンションの一室。5人も入れば手狭になる1DKで一日を過ごす。仕事以外の用事で外出することはほとんどない。
給料は歩合制だ。客が支払う6000円から1万円ほどの料金から店が仲介料を取った残りが、女性たちの手元に入る。
仕事が多く入れば1日2万~3万円を稼ぐことも可能だが、収入ゼロの日も多い。
三上さんが風俗業界に入ったのは16年前。23歳だった。以前はスーパーの店員として働いていた。初めての一人暮らしで、家賃や生活費をまかなうので精一杯。洋服代や遊興費を工面するために軽い気持ちで消費者金融に手を出した。額は多くはなかったが、借り入れは毎月続き、利子はどんどん積み上がった。
決定打は、友人からカネを貸してほしいとせがまれ、数十万円を融通したことだ。すぐに友人は音信不通に。三上さんの借金の総額は400万円以上にもなっていた。スーパー店員の稼ぎだけでは到底返済できない。スーパーを辞め、風俗に足を踏み入れた。
「自分が悪いのはよくわかっています。でも、親兄弟を頼ることはできませんでした。当時の私には、風俗しかなかった」
住所不定から抜け出せない
<今日は 9:00 ~ 23:00 の受付予定です。お誘いお待ちしてます。三上>
30代後半になると、20代前半の時のように割よくは稼げない。体力的にも風俗だけでは限界に近づきつつある。
「でも、抜けられない。昼間の仕事に就けないんです。待機部屋で寝泊まりしているって、住所不定ってことですから」
仕事を探そうにも自宅がなければ取り合ってくれない。家を探そうにも門前払いだ。保証人もいない。
「夢、ですか? ないですね。あ、でも家賃3万9000円のアパートを見つけたんです。そこになんとか入れたら……それが夢……かな」
路上では寝ていないから見えづらいが、三上さんは「ホームレス」だ。風俗という“セーフティーネット”が、彼女たちの貧困を覆い隠している。
(Yahoo!ニュース編集部/AERA編集部)