「NHKが法廷で偽証」
フランス人女性の解雇訴訟で
弁護士が痛烈批判
裁判所も
「証言は採用できない」
判決後に記者会見するエマニュエル・ボダンさん=11月16日午後
東京・霞が関の司法記者クラブ
「NHK側が法廷で偽証した。明らかに犯罪だ。偽証の証拠を突きつけられても証言を撤回しなかった例は聞いたことがない」
NHKのフランス語ラジオ放送で翻訳やアナウンサーを担当していたフランス人、エマニュエル・ボダンさん(58)が、東京電力福島第1原発事故を受け東京から避難したところ、業務放棄を理由に契約解除されたのは不当だとし、NHKに約1500万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、吉田徹裁判長は「契約解除は不当だった」とし、NHK側に約500万円の賠償を命じた。ボダンさんの代理人を務めた梓沢和幸弁護士は判決後の記者会見で、冒頭の言葉で怒りを露わにした。NHKは本当に偽証したのか…!?(小野田雄一)
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「巨人ゴリアテに羊飼いダビデが勝った。この判決は、私だけのものではなく、巨大な組織に理不尽な扱いをされている弱い立場の人みんなの判決だ」
11月16日の判決後の記者会見で、ボダンさんは旧約聖書のエピソードを引用しながら、晴れやかな表情でそう話した。一方、梓沢弁護士は「NHKが明らかな偽証をした。ゆゆしき問題だ」と憤りを見せた。
この裁判の最大の争点は、原発事故後にボダンさんが避難したのは不当だったのか-というものだった。
ボダンさんは「避難する前、30年以上NHKでアナウンサーをしてきた同僚のベルギー人男性A氏に代役の依頼をし、了解を取った。その旨を番組の女性ディレクターにも伝え、その女性ディレクターからも避難の了承を得た。不当なことはしていない」と主張。
一方、NHK側は「A氏とボダンさんの間で代役の了解はなかった。また、避難の了承もしていない。突然の欠勤で番組放送に混乱をもたらした。避難は不当だった」と真っ向から反論していた。
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キーマンであるA氏はNHK側の証人として出廷した際、「3月15日は、ボダンさんから“避難する”という内容の電話を1回もらっただけだ。代役は了承していない」と証言。また女性ディレクターも「ボダンさんからは“出勤できない”という簡単な連絡を受けただけで、代役の話は聞いていない」と証言した。
しかし弁護側が提出し、証拠採用されたボダンさんの通話記録から、ボダンさんはA氏に午前10時40分に1回電話し、午前11時前には女性ディレクターに電話、さらに正午にA氏に再度電話をしていたことが明らかになった。A氏とは1回目に6分、2回目は3分、女性ディレクターとも2分以上話していたことも判明した。
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11月16日の判決で、東京地裁は「通話記録に照らしても、“A氏への1回目の電話で代役の了承を取り付けた後、その旨を女性ディレクターに電話で伝え、A氏にもう一度電話して代役出勤してくれたかどうか確認した”というボダンさんの主張が自然で理にかなっており、A氏とディレクターの証言は採用できない」と判断し、NHK側に約500万円の支払いを命じた。
梓沢弁護士は「通話記録を突きつけられても、A氏らは証言を変えなかった。A氏は長年働いているNHKに義理を感じ、NHKのために嘘をついた可能性があるが、真相は不明だ」と話した。
一方、NHK広報部は産経新聞の取材に「当時の記憶に忠実に証言したもので、偽証した事実はありません」と回答した。