【続・よく分かる安全保障法制】
南シナ海情勢で早くも効果発揮 対中外交戦の「武器」に
9月に成立した安全保障関連法は、自国の安全保障のために自衛隊が活動できる領域や分野を拡大した。あたかも他国に侵攻するかのような「戦争法」といった事実を歪曲(わいきょく)した批判が続くが、実態は戦争を未然に防ぐ「抑止力」としての機能を果たすものだ。すでに力による一方的な現状変更に対抗する抑止力として、日本外交の新たな“武器”となっている。
「わが国は米国の『航行の自由作戦』を支持しているが、あくまで米国が独自に行っているものだ」
安倍晋三首相は22日、訪問先のマレーシアの記者会見で、南シナ海の米軍による「航行の自由」作戦に対し、参加する考えがないことを強調した。
ただ、首相はこうも強調した。
「わが国の安全保障に与える影響を注視しつつ、さまざまな選択肢を念頭に置きながら、十分な検討を行っていきたい」
日本のシーレーン(海上交通路)に位置する南シナ海の情勢が悪化し、日本の安全保障に不利益が生じれば、自衛隊の派遣も排除しない-。これまでの周辺事態法では南シナ海有事に日本が関与できるかは曖昧だったが、安保関連法は地理的な制約を撤廃した。中国にしてみれば、米軍と高い相互運用性を有する自衛隊が南シナ海で活動するようになれば、「邪魔」な存在でしかない。首相は具体的な活動を明示しないまでも、中国に対して自制を促す“圧力”をかけた形だ。
安保関連法は、米国やオーストラリア、インドなど共通の利益を有する友好国と安全保障のネットワークを充実させている。早速、南シナ海情勢を協議した22日の日豪外務・防衛閣僚協議(2プラス2)で、その一端が明らかになった。
中谷元(げん)防衛相が中国の人工島造成を念頭に「地域が一体となって『容認しない』と声を上げることが戦略的に重要だ」と持ちかけると、ビショップ外相は日本の安全保障関連法に強い支持を表明した。ともに米国を同盟国とする日豪の連携は、中国へのさらに強い牽制(けんせい)となる。集団的自衛権の行使を容認する安保関連法という“裏打ち”があるからこそ、日豪の連携は実効性を持つことができる。
ただ、歴代政権は集団的自衛権の行使を否定し、日本に対する侵攻が起きた場合に限って自衛隊が防衛出動する「個別的自衛権」しか認めてこなかった。
だが、個別的自衛権では埋められない「切れ目」も存在した。例えば戦地から脱出する邦人を輸送する米艦艇や、日本近海で弾道ミサイルの発射を警戒する米艦を自衛隊が防護することができない。国家の存立や国民の安全に直結する深刻な事態だが、個別的自衛権の範(はん)疇(ちゅう)では対処できない。
安倍政権は昨年7月の閣議決定で、集団的自衛権行使に関する憲法解釈を見直し、「武力行使の新3要件」を定めた。3要件のポイントは「他国が武力攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由などが根底から覆される明白な危険がある」という場合に集団的自衛権を行使できるとしたことだ。安保関連法ではこうしたケースを「存立危機事態」と定めた。
とはいえ、日本の集団的自衛権の行使対象は諸外国と異なり、他国の領土に自衛隊を派遣し、武力行使するようなフルスペック(全面行使)といわれる「他国防衛」ではなく、あくまでも「自国防衛」の目的に限定される。一方で、存立危機事態の要件に対しては、「厳格すぎる」という指摘もある。自衛隊の行動が遅れれば、より烈度の高い戦闘を強いられるばかりか、国民への悪影響も増大しかねないためだ。
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