批判が止まらない
合法的に契約拒否
効果に疑問、反発強まる
元NHK職員・「電波利権」著者 池田信夫氏に聞く
--受信料支払い義務化についての賛否は
「反対だ。以前から議論されては棚上げされてきたテーマで、『またか』という印象が強い。仮に義務化して罰則を設けたとしても、効果があるか、甚だ疑問だ。警察が違反者を取り締まるにしろ、行政的な仕組みで対応するにしろ、回収できる1件当たりの額は少額で、劇的な効果が出るとは考えにくい。かえってNHKへの反発が強まる可能性も高い」
--受信料の公平負担の実現は、長年の課題になっているが
「現在の放送法や受信料制度は、複雑で分かりにくい。料金を払った人だけが番組を見られるスクランブル化が、最もシンプルで分かりやすい。視聴実態を把握したり、スクランブルをかけたりすることは、現在の技術では簡単にできる。NHKを民営化し、WOWOWやスカパー!のような有料放送にすべきだ」
--NHKは「公共放送の理念と矛盾する」として、スクランブル化には消極的だ
「スクランブル化すれば見ていない人が払わなくなるため、NHKとしては、減収につながることを恐れているのだろう。しかし、放送の多チャンネル化やインターネットの普及が進み、これだけコンテンツ(番組)があふれている時代に、NHKだけで地上波、BS、ラジオと計7波も維持する必要があるのか。確かに、特に総合テレビは公共的な性格が強い。総合テレビのスクランブル化には反対意見も多いだろうし、この点は議論の余地がある。ただ、大規模災害時などにはスクランブルを解除し、誰でも見られるようにすればいいだけのことだ」
--自民党の小委員会は、値下げもセットで検討するよう提言している
「値下げの前に、受信料を払っている人が、過去の番組をネット上で無料視聴できるアーカイブ(保管所)を整備すべきだ。ただでさえ、NHKをはじめ日本の放送局のネット対応は、海外の先進国に比べて遅れている。これもNHKの『特殊法人』という縛りが原因だ。予算に国会の承認が必要であることが、良くも悪くも政治とNHKの距離を近づけ、NHKの立場を難しくしている。NHKの独立性を保つ意味からも、有料放送にした方がいい」(産経ニュース、2015.10.18)
テレビを見ても見なくても
不公平に一石投じたい
自民党・佐藤勉「放送法の改正に関する小委員会」委員長に聞く
--今回の提言の狙いは
「平成26年度時点で、NHK受信料の支払率は76%。残り24%は支払っていない。NHKは29年度末までに支払率を80%にする目標を掲げているが、NHKは受信料徴収のため、年間700億円近い営業経費をかけている。不払い者に支払ってもらえるようになれば、営業経費も減り、受信料も下げられるだろう。もちろん、本当は支払い義務化など、しない方がいいに決まっている。しかし、支払っている人にとって不公平な状態が、何十年も改善されていない。どこかで一石を投じる必要があると思い、まとめた提言だ」
--19年には、当時の菅義偉(すがよしひで)総務相が支払い義務化を見送っている。支払い義務化は、公共放送のあり方とそぐわないのではないか
「現在の放送法も、テレビの設置を前提に受信契約を義務付けている。その上で、受信料を払っている人と払っていない人の差があるのはおかしい、という問題提起をしている。例えば、英国やドイツでは、公共放送料金の支払いを義務付けた制度を採用しており、支払率は九十数%に達している。日本も参考にできる点があるのでは」
--受信料を払った人だけが番組を視聴できる「スクランブル化」や民営化など、抜本改革を求める声もあるが
「私はそこまで考えてはいない。現状のNHKの体制は、視聴者から一定の理解を得ていると思う。現在の組織を維持し、健全に運営していくことが望ましいと考える」
--提言では、インターネットで24時間、番組を流すことを見据えた制度設計についても検討を求めている
「放送法の範疇(はんちゅう)でなかったネットサービスをどう位置付け、整理するかは今後の課題だ。NHKはこれからテレビ番組をネットでも同時に流す『同時再送信』の実験を始める。今後、仮に24時間、同時再送信を行うとして、現在の受信料とは別に課金をお願いするのは分かりづらい。そのため、全ての人に(テレビ放送もネットサービスも含めた料金を)負担してもらうことがいいのではないかと思っている」(産経ニュース、2015.10.18)
「みなさまのNHK」はどこへ
義務化?その前にやる事あるでしょ?
NHK受信料の支払い義務化についての論争が盛り上がっているようです。振り返ると、私はすでにNHK問題で物議を醸しました。
去年の3月、NHK予算を審議する総務委員会で「くだらない番組が多いのではないか」とNHKのお笑い番組を取り上げたところ、Twitterなどで大変ツィートいただきました。
私としてはお笑い番組そのものがダメだと言いたかったのではありません。当時も主張しましたが、NHKで例えばパラリンピックなどもっと放送すべき重要なものが少なく、それであれば民放局と同じような内容は減らすべきで、NHKだからこその番組内容があるだろう、と言いたかったのです。そしてNHK受信料の義務化ですが、そもそも現在も放送法でNHKを受信できるテレビを持てば受信契約を結ぶ義務はあります。つまり、本格的に論じていくことになるだろう義務化の議論は、現在は設けられていない罰則についてなのではないかと推測しています。
いずれにしても議論はこれから始まります。その議論を見守りたいと思いますが、あらためて放送内容についてもっと検討をして欲しいとは思っています。例えば、海外に出張に行くと「NHKワールド」というNHKチャンネルをホテルなどで見られますが、番組は「日本の自然」「世界でブームになりつつある和食」「クールジャパン、日本の最先端の流行」といった内容が多いイメージです。もちろん悪くはありませんし、趣旨もわかります。
しかしその一方、同じ地で中国の国営放送CCTV(中国中央電視台)は、中国が訴える主張を声高に喧伝しています。NHKは公共放送で国営ではないので日本の「主張」を発信すべきとまでは思いませんが、外国で中国の国営放送が喧伝する主張を英語で見ることができる一方、日本はそのような放送がないのが現実です。このような世界に対する情報発信の差が、日本に対する誤解を生むこともあるのではないかとも考えます。NHKには、公共放送として的確な情報発信を心がけて欲しいのです。
NHKワールドニュースは、日本国内のニュースを英語で放送していますが、例えば日本での(変な言い方ですが、通常的な)殺害事件のようなニュースは、海外で流す必要は薄いのではないでしょうか。それよりも「日本政府はこう主張(反論)した」といった客観的な事実を英語で発信する機会が増えるのであれば、公共放送として国民全体で支えていく必要もあると思います。そもそも国内外問わず放送内容について首を傾げざるを得ない状況で、義務化だけが論じられるようでは、逆に反発を招くことになりかねません。
またNHKは公共放送として、災害発生時にいち早く情報を伝えることなども重要です。こうした点では公共放送として国民もNHKを守る必要はありますが、どのように守っていくかについてはみんなで考えていく必要があると思います。(「中田宏公式HP」2015.10.22)