戦艦「武蔵」を
発見したか
まずは、戦艦武蔵を発見したオクトパス号の
クルー達が武蔵の戦死者に黙祷してくれたことに
感謝します
米マイクロソフト社の共同創業者である大富豪ポール・アレン氏率いる探査チームが、フィリピンの海で水深1000メートルの海底に沈んでいた戦艦武蔵を発見した。
武蔵と言えば、姉妹艦大和とともに当時としては世界最大の戦艦。しかし1944年10月24日、レイテ沖海戦で連合国軍との戦いに敗れて沈没、乗組員2399人のうち半数近くが命を落とした。この戦いは、第2次世界大戦中最大の海戦とされている。
アレン氏らはどうやって武蔵の発見に至ったのか。
実は、捜索海域を絞り込む作業が始まったのは8年以上前のこと。探査チームが主な資料を当たったところ、シブヤン海の沈没位置には4カ所の候補があった。日本と米海軍それぞれの発表地点、乗組員救助に当たった日本の駆逐艦に残されていた記録、そして日本人の生存者が描いた地図である。探査チームはそれらの証言を基にさらに膨大な資料を集め、捜索エリアを1200平方キロほどの範囲に絞った。
探査チームはアレン氏の所有する大型船「オクトパス号」に乗り込み、ソナーと音響測深機を使って調査した。サイドスキャンソナーは音波を使って海底の地形や物体を探知する装置で、沈没船の捜索によく使われる。マルチビーム音響測深機は捜索海域の深さを測るもので、ソナーによる調査対象物も検知することができる。
ところが、対象エリアには巨大な海底火山の頂上部が広がっていたために、場所によって水深が異なり、ごくわずかな範囲でも150メートルから2000メートルの高低差があることが珍しくなかった。これでは、マルチビーム測深器も船で牽引するタイプの従来のサイドスキャンソナーもあまり役に立たない。そこで今度は、自律型無人探査機(AUV)を投入することにした。これならロープで引く必要もないし、不規則な地形であっても安定的にソナー調査を行える。
海の「マウンテンゴート」
「一般的な無人探査機は、石油・天然ガス産業で活躍しています。例えばメキシコ湾など海底が平坦で、あまり高低差の激しくない海で使われることが多いです」と、探査機を製造するブルーフィン・ロボティクス社のウィル・オハロラン氏は言う。同社は探査チームと協力して今回の目的に合った無人探査機「マウンテンゴート(シロイワヤギ)」を設計、その運転を監督した。
しかし、変化に富んだ地形は探査に有利な面もある。アレン氏のチームは、急傾斜で高度の高い場所を捜索対象から除外し、斜面の麓に焦点を絞ることにした。「武蔵ほど重量のあるものが、山のてっぺんにおとなしく座っているとは考えにくいです。6万トン以上もの重さがあれば、下の方へ滑り落ちていくと思いませんか?」
そこで、無人探査機が斜面の上から下へ、そして次に下から上へソナーで検知するようプログラムした。「無人潜水機はどこかヤギに似たところがあります。頑固で頑張り屋ですから」と、オハロラン氏は冗談交じりに話す。
無人探査機の1回の潜水時間は平均で24時間、最大で388平方キロの範囲を調査した。その後オクトパス号に戻ると、チームメンバーはソナーデータをダウンロードし、船の残骸に見えそうな異質なものがないかどうかを調べる。何か気になるものがあれば、遠隔操作の無人探査機「オクトROV」が潜って調査し、搭載の高解像度カメラで撮影する。
無人探査機が目的の物を発見したのは、3度目の潜水時だった。その後オクトROVの撮影した画像で、武蔵の残骸であることが確認された。以来、アレン氏はオクトROVによる武蔵の画像や動画をツイッターで発信し続けている。その中には、縦11メートル、横6メートルの巨大な主舵を撮影した動画もある。
早期発見の影に隠れた努力
表向きには、武蔵の発見はあっけなく成功したかに見えるかもしれないが、探査範囲を絞り込むまでには何年もの長い期間を要していたとオハロラン氏は強調する。「アレン氏のチームは実に根気強く研究を続け、そこから得られた確かな情報を基に捜索開始地点を決定しました。その結果は見ての通り、いったん狙いを定めたら、発見まではあっという間でした」
オクトパス号は、過去にもいくつかの科学探査に参加してきた。2012年に映画監督のジェームズ・キャメロン氏が世界最深のマリアナ海溝へ潜航した探査プロジェクト「DEEPSEA CHALLENGE(ディープシー・チャレンジ)」でもこの船は活躍している。
アレン氏は声明の中で、今回の発見がレイテ沖海戦に関していまだ分かっていない部分を明らかにしてくれることを期待すると語った。また、この戦いで命を落とした兵士たちの遺族にも、終止符を打つ助けになればと願っている。
ある武蔵の生存者は、アレン氏が世界へ発信した画像や動画を見て、記憶の中にある武蔵と一致すると証言した。そしてアレン氏の声明に同意して、武蔵沈没から70年となる今年、戦艦とともに海へ散った1023人の乗組員たちが、あの出来事を忘れないよう現代に訴えているのではないかと、AP通信へ語った。
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