パナソニックにホンダ
続々と日本に
帰ってくる海外工場
日本企業が長期にわたる円高に苦しみ人件費が安い中国と東南アジアに生産拠点を移したのは1990年代から2000年代半ば。その後日本の国内製造業は空洞化現象に苦しめられた。工場が海外に出ていくと失業率も上昇した。
その流れが10余年ぶりに変わっている。一時1ドル当たり70円台後半まで上がった円が1ドル=120円の円安に反転してだ。海外に出て行った日本企業は再び生産拠点を日本国内に移し始めた。円高の時は海外で生産し国内に持ってくる方が費用が少なかったが、円安になりそれだけ製造費用が上昇しているためだ。経済成長で中国や東南アジアの人件費が急騰したのも一因だ。
海外に出て行った生産拠点が日本国内に定着すれば日本企業の設備投資だけでなく、雇用が増える効果も予想される。これまで生産拠点の役割をした中国や東南アジアの工場は今後現地消費者を対象とする製品を生産する側に特化する計画だ。読売新聞は5日、日本最大の家電メーカーのパナソニックが海外で生産し日本に逆輸入している洗濯機やエアコンなど家電製品の大部分を今春か順次日本国内生産に切り替えることにしたと報道した。対象品目は40品目に達する見通しだ。
パナソニックの家電製品の日本国内売上額は約5000億円。このうち40%ほどを中国など海外で生産している。したがってこれを国内生産にシフトする場合、付随効果は相当なものになる見通しだ。
読売新聞によると、パナソニックは円安が1円進むごとに家電製品の利益が年間18億円減少し、こうした状況で1ドル=120円台に進めばコストを節減するとしても大規模な収益減少が避けられないと「国内回帰」の背景を分析した。
パナソニックはまず、ほぼ全量を中国生産に依存していた一般洗濯機の生産を静岡県袋井工場に回す。その後全量中国生産の家庭用電子レンジは神戸に、家庭用エアコンは滋賀県草津に拠点を移す。
パナソニックだけではない。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は昨年12月のメディアとのインタビューで、「日本国内での年間生産を少なくとも10万台ずつ増やす方針」と話した。日産の国内生産比率は2004年の40%から2013年には20%以下に落ちた。円高により海外に生産拠点をほとんど移したためだ。だが、円安によりこの路線を修正するということだ。
ホンダも同様だ。原付バイクの生産の一部を熊本工場に移す方針だ。2002年に海外生産に方向を定めて13年ぶりの「国内回帰」だ。ホンダは1年前までも日本国内で販売する小型バイク11万9000台のうち90%を中国とベトナムで生産してきた。
日本最大の機械メーカーであるダイキンは昨年からエアコン25万台の生産を中国から日本に切り替えた状態だ。キヤノンも日本国内生産比率を2013年の40%から今年は50%に増やす方針だ。
こうした製造業者の国内回帰を首を伸ばして待っているのが日本の中小企業だ。
電子機器に使われる樹脂部品切削加工業者のオーエムの場合、取り引きした大企業の海外移転で受注量が90%も減ったが、最近になり注文が1日に20件入ってくるなど回復の兆しが見えている。
しかしトヨタなど相当数の日本企業は「円安がこのまま定着するのか、少なくとも2年は見守らなければならない」として慎重な姿勢を見せている。一部では「中国と対立する安倍政権が円安を契機に徐々に中国から手を引く側に雰囲気を誘導している側面もある」と指摘している。実際に安倍首相は先月14日の総選挙前の遊説でも「(安倍政権発足後)円安により大企業が日本に戻っており、日本国内の雇用条件はさらに良くなるだろう」と強調した。
製造業、国内回帰徐々に-円安で輸出採算性改善
20日の東京外国為替相場は7年3カ月ぶりに1ドル=118円台で推移し、円安が進行した。本来、円安は輸出に有利なため、日本企業が海外生産拠点を国内回帰させる動きが加速するのだろうか。内閣府の調査によると、国内回帰への課題として為替の安定、安価で安定的なエネルギー、法人税減税などを指摘する。為替以外の要素も大きな決定要因となっているほか、為替を理由に生産体制を見直す場合はある程度の時間を要すると結論づけている。
【海外リスク避ける】
内閣府は「企業の事業拠点選択について」と題した調査をまとめ、経済財諮問会議に提出。資料によると2013年以降、報道などで国内事業拠点を再評価する動きが報じられた日本企業14社にヒアリングしたところ、8社がすでに国内工場への生産移管などを決定したという。
国内回帰を決めた理由は、円安による輸出採算性の改善に加え、(1)新興国で事業展開する上でのコストとリスクの増加(2)国内拠点の立地優位性を再評価している―ことを挙げる。新興国での人件費の上昇や政治的リスク、技術漏えいの懸念、不十分なインフラ整備が国内回帰を促している。さらに、高品質・高付加価値製品の生産拠点として、または技術力を維持するため研究開発と生産を一体で行う拠点として国内を再評価していると指摘する。
【設備投資は国内増】
日本政策投資銀行の調査によると、14年度の設備投資計画は海外が前年度比1・6%減だったのに対し、国内は同14・7%増と増えており、国内での投資を重視する計画が示されている。
こうした投資計画が今後、国内回帰にどこまで結びつくのか。内閣府によると、ヒアリングした14社のうち6社が国内事業拠点の強化を予定していないもしくは検討中で、国内回帰への課題として為替の安定、安価で安定的なエネルギー、法人税減税、環太平洋連携協定(TPP)などの経済連携が重要との声が聞かれたとしている。
【本格化には時間】
ただ、為替の変動から生産拠点を見直すまでには2年程度のタイムラグがあるとの日銀の分析を紹介。国内回帰の動きが本格化するかどうかは、一定の期間を見定める必要があると指摘する。
円安にもかかわらず日本企業の輸出が伸び悩んでいるのは、"失われた20年"に円高対策として海外生産シフトを進めたことが背景にある。定着しつつある貿易赤字構造を脱却するには、エネルギーコスト削減に向けた原子力発電所の再稼働やTPP交渉など課題が山積している。
[2014年11月21日]
国内製造業 脱中国で国内回帰が鮮明 TDK、中国生産の3割を国内に切り替えへ
中国生産を続けてきた日本企業10+ 件が国内生産に切り替える動きが広がってきた。電子部品大手のTDKが、中国で生産する部品の3割を段階的に国内に移管する方向で検討に入ったほか、パナソニックも縦型洗濯機や電子レンジを国内生産に順次切り替える。円安の加速や人件費の高騰で、中国生産のメリットは低下しており、地方創生を掲げる政府にとっても、企業の国内回帰は追い風となりそうだ。(黄金崎元)
TDKは、中国で25の主要生産拠点を持ち、売上高全体の4~5割程度が中国生産とみられる。このうち、スマートフォンや自動車向け電子部品の生産を順次国内生産に切り替える。
同社によると、中国の工場での従業員の定着率が落ちているほか、人件費も高騰している。こうしたリスクを軽減するため、秋田県や山梨県にある既存工場の遊休施設を活用する方向で検討している。
パナソニックも、中国で生産し日本で販売する家電を国内生産に順次切り替える。縦型洗濯機を静岡県袋井市の工場、電子レンジを神戸市の工場に生産移管する。すでに家庭用エアコンなどは滋賀県草津市の工場への移管を一部で始めている。
同社は中国を含め海外で生産する家電約40機種を国内に切り替える方針だが、その背景には円安の影響がある。現在の為替相場は1ドル=120円前後の水準だが、海外で生産した製品を輸入すると採算がとれず、業績面での減益が避けられないという。
一方、シャープの高橋興三社長も6日の記者会見で、テレビや冷蔵庫の生産の一部を栃木県矢板市や大阪府八尾市の工場に移す方向で検討を始めていることを明らかにした。高橋社長は「1ドル=120円で(国内生産に)移した方がよいものは出てくる。工程数の少ないものから移したい」と述べた。
このほかには、ダイキン工業が家庭用エアコンの一部生産を中国から滋賀県草津市の工場への移管を完了した。ホンダも国内販売する原付きバイクの一部を熊本県大津町の工場への移管を検討中だ。
国内生産は海外に比べ、工場の電気代がかなり高いという課題も残るが、かつて多くの製造業が海外生産に踏み切った最大の要因である過度な円高は解消された。今回の国内回帰の動きは、地方で新たな雇用を生み出す可能性がある。
パナソニック、一部家電製品を国内生産に
日本企業の中国撤退が加速
【円安】上念司「怖い中国より日本が良い!えっ『レノボ』も来るの?」もの凄い人手不足になりそう。