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【決断の時】リンガーハット! お客様の安心安全を考えて国産化にこだわる!

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文=荻島 央江、写真=鈴木 愛子
リンガーハット 会長兼社長
米 和英(よねはま かずひで)

1943年鳥取県生まれ。62年、2人の兄とともに「とんかつ浜勝」を長崎市で創業。74年、現在の「リンガーハット」の原型となる「長崎ちゃんめ ん」1号店を開店。取締役、社長を経て、2005年会長に就任。08年9月から現職。06年から08年まで日本フードサービス協会の会長を務める。現在、 全554店を展開。00年に東証1部上場。09年2月期、売上高は353億7500万円

「リンガーハットは2009年10月1日から日本国内で採れた新鮮な野菜しか使いません」─。

長崎ちゃんぽん専門店などを展開するリンガーハットが、大手外食チェーンとしては“異例の方針”を発表したのは9月のことだ。

08年の冷凍餃子中毒事件以降、消費者の「中国産食材離れ」は急速に進んだ。飲食店の多くが「国産を使っている」「国産に切り替えた」と声高にうたい始めたが、実際は一部商品で、コスト面から中国産の安価な冷凍カット野菜の使用を続けているところが少なくない。大量消費をするチェーン店なら、なおさらだ。しかも、金融危機による景気後退の影響は外食産業に重くのしかかっている。質は良くてもコスト高の国産にこだわれば、利益を圧迫しかねない。


リンガーハットも安閑としていられる業績ではない。09年2月期売上高は前年同期比3.3%減の353億7500万円、経常利益は同93.2%減の2900万円となり、24億3400万円の最終赤字という厳しい状況だ。

しかし、同社の会長兼社長である米和英は意に介さなかった。「やるのは今しかない」。一度は会長に退いていたが、昨年9月に業績不振を改善するため、社長として再登板。その直後にコストアップのリスクを承知で即、野菜国産化計画にゴーサインを出したのだ。

そして、およそ1年後の今年10月、リンガーハットグループが使用する年間1万2400tの野菜は「すべて」国産化された。

野菜国産化で成功再登板直後の
大胆戦略の裏側



米は1962年、2人の兄とともにリンガーハットを長崎市で創業した。76年、32歳のとき、創業者である長兄の急逝に伴い社長に就任。以来、約30年間、経営の舵を取り続け、リンガーハットを全国区の長崎ちゃんぽん専門店チェーンへと育て上げた。
2005年には日本マクドナルド出身の新社長を外部から迎え入れ会長に退いたものの、08年9月に、再びトップに就任する。

「自分で定年制度を決めたので、社長に戻ろうなんて全く考えていなかった。でも、08年8月中間期に純損益が赤字に転落した段階で、この会社をきちんと後につないでいかなきゃいかんと強く思うようになったんです。誰に嫌われようが、周囲から何を言われようが、もう一度、自分でやらなければ悔いが残ると思ったんですよ」。


米は再登板するやいなや、事業の建て直しに向けて、さまざまな手を打った。

当時、リンガーハットが赤字体質に陥っていた原因は大きく分けて二つあった。一つは、原材料費高騰などによるコストアップ。もう一つが、06年のノロウイルス流行による影響や、同じく06年に実施した値上げをきっかけにした集客力の低下だった。
このため、米は、不採算店50店舗の閉鎖や自社工場での内製化推進といった経費削減策に着手するとともに、どうすれば失われた客足を再び店に呼び戻せるかについて考え続けた。

割引クーポンの大量発行は既に、前任者のときから実施されていた。しかし、クーポンでの集客は一時的に顧客を増やすものの、結局は採算を悪化させた。社員も労力に対して利益が少なく、気力・体力ともに疲弊していた。

「何かもっと前向きなことをしなければ。お客様に喜ばれ、社員が明るくイキイキと働くことができ、そして会社全体がぱあっと活力を取り戻す何かよい方法はないだろうか」─。

そんなとき、米の頭に浮かんだのが、ちゃんぽんに使う野菜の国産化だった。
社長再就任後、1カ月も経たない08年9月下旬、福岡のトレーニングセンター。執行役員以上20人が一堂に会する定例の合宿の席上で、米は、野菜の国産化を提案した。役員の反応は一様に鈍かった。
当時、生産管理を担当していた執行役員の山繁樹は、「真っ先に『コストはどう吸収するのか』『価格に転嫁すれば、さらに客足が遠のくことにならないか』ということが頭に浮かび、米にも聞きました」と話す。

それでも米の考えは揺るがなかった。というのも、米は社長を退き、一時日本フードサービス協会の会長を務めていた。そのとき、多くの地方の農家から国産野菜を紹介される機会に恵まれ、国産野菜のおいしさに改めて驚かされた。そして、何とか利用できないかと思い続けていたからだ。


「何より、兄貴たちと始めたこの商売がどうしてここまで大きくなったのかと考えたら簡単な話。当初は、国産野菜のみで新鮮な野菜を使い、とにかく“おいしい”ちゃんぽんをお客様に提供してきた」。だったら、もう1回原点に返ってやればいい。もちろんコストや供給面など、不安要素を数えたらキリがない。「でもね、ごちゃごちゃ言っていないで、とにかくやってみようや、と。こんなときのためのワンマンなんだから、聞く耳は持ちませんでした(笑)」。


こんなときだからこそ
何か前向きな取り組みを始めよう

コストアップ対策はどうするか。米はシミュレーションを繰り返し、結局、ちゃんぽん1杯当たりの野菜の量を230gから255gに増量しつつ、価格を40円から100円値上げすることにした。不況の時代に逆流する動きだ。東日本地区の場合、長崎ちゃんぽんは450円から500円となる。


業績不振のきっかけとなった06年の値上げによる客離れが脳裏をよぎらないわけではなかった。しかし、今回は“単なる値上げ”ではない。

「国内で収穫した野菜をそのまま自社工場に搬入しカットしたものを炒めたのと、一度ゆでてから急速冷凍した輸入のカット野菜を炒めたものとは、食べたときのシャキシャキ感がまるで違う。国産の野菜で作るちゃんぽんは『安心して食べられる』だけが売りではなく、実際においしいんです」。


野菜の変更と同時に、野菜480gをふんだんに使った「野菜たっぷりちゃんぽん」を新たにメニューに加えたほか、スープも改良。合成着色料や保存料を使わず、塩分を以前に比べ10%下げるなど、「健康的で、体に良いちゃんぽん」というイメージを強く打ち出すようなメニュー変更も実施した。

野菜たっぷりちゃんぽん

新たな看板メニュー「野菜たっぷりちゃんぽん」(650円)こんもりと盛られた野菜の高さは底から7cm以上と規定で決められている

すべての野菜を国産化するには、安定した供給体制を作ることも大きな課題となる。大量の国産野菜を年間を通して安定的に確保するのは容易ではない。
「長崎ちゃんぽん」にはキャベツ、もやし、玉ネギ、人参、青ネギ、コーン、オランダさやえんどうの7種類の野菜を使う。リンガーハットではこのうち既に国産化していたキャベツともやし以外の5種類の野菜について新たに調達先を探さねばならなかった。

天候不順で収穫できない場合なども考えると、一部地域だけには頼れない。そのため、北から南まで全国に産地を求め、購買部門を中心に東奔西走する日々が続いた。

なかでも、調達に苦労したのがオランダさやえんどうだ。いざ調べてみるとリンガーハットでの年間使用量220tに対し、オランダさやえんどうの国内年間生産量はわずか50t。それでも、米はこれに代わる食材はないと判断。使用をあきらめるでもなく、量を減らすのでもなく、新たに作ることに挑戦してくれる生産者を探し出し、大量生産の契約にこぎつけた。


今回の計画に伴って契約した産地は、最終的に北海道から九州まで15道県、約40産地に上った。「 野菜国産化を決めてからわずか1年足らずで、餃子の具からちゃんぽんに添えるショウガドレッシングに至るまで、すべての野菜を国産化できたのは、生産者の皆さんのおかげです」と米は振り返る。


非常時は超ワンマンでいい
迷わず行けーってね

リンガーハット 会長兼社長 米 和英

プロジェクト開始から半年後の09年4月、静岡県、鹿児島県内の18店舗で、野菜を完全国産化した新「長崎ちゃんぽん」などの新メニューが全国に先駆けてスタートした。

「お客様に喜んでもらえるだろうか。お客様は野菜のおいしさを評価してくれるだろうか……」。
米自身、この段階では「売れる」という確信はなかったという。胸をなで下ろしたのは、サービス開始とほぼ同時に静岡の店舗を視察したときだ。
「午後の3時か4時くらいだったかな、お客さんが店に入って来るなり『野菜たっぷり!』って大きな声で注文したんですよ。そして料理が来たら、お客さんの目元がほころんだ。この仕事を長年やっているカンに過ぎないのだけど、『あっ、これはいけるな』と初めて感じました」。

米の予感は的中し、野菜を国産化して以降、客数、売り上げはともに月次ベースで10%以上上昇し、客単価も40円アップ。原材料費の上昇分は客単価のアップで吸収できた。最近は、不況のため消費者が中国産をためらわず買う「中国戻り」現象がしばしば報道される。しかし、「数十円の安さ」より「国産に対する安心感」「国産のおいしさ」をお客が選択したのは明らかだった。


今後、リンガーハットでは野菜のみならず、ちゃんぽんで使用する小麦も来年1月からすべて国産化する予定だ。同社では6~7年前から国産小麦に切り替え始めており、現在の使用量の8割は既に日本国内のものだという。

小麦も野菜と同様、国産化すればコストアップになる。逆にこれを全部、外国産に替えたら、同社にとっては1億円のコストダウンだ。

「でも、僕は国産化をやりたい。確かに費用はかさむけど、そんな一本気な会社があってもいいんじゃないかって思うんです。小麦を国産化したからといって売り上げが上がるかどうか分かりませんよ。僕は決断に迷ったらいつも『おれは運がいいんだ』と自分に言い聞かせるんです。ちょうど今、神様が自分の上にいて『あっちに行きなさい』と指示してくれていると思い込むんですね。そうでも思わないと、経営なんてやっとれんですよ(笑)」。

(文中敬称略)
この記事は日経レストラン2009年12月号のコラム「決断のとき」を再掲載したものです。(同連載は終了しています)ご購読の申し込みはこちらから


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