リンガーハット 会長兼社長
米 和英(よねはま かずひで)
1943年鳥取県生まれ。62年、2人の兄とともに「とんかつ浜勝」を長崎市で創業。74年、現在の「リンガーハット」の原型となる「長崎ちゃんめ ん」1号店を開店。取締役、社長を経て、2005年会長に就任。08年9月から現職。06年から08年まで日本フードサービス協会の会長を務める。現在、 全554店を展開。00年に東証1部上場。09年2月期、売上高は353億7500万円
08年の冷凍餃子中毒事件以降、消費者の「中国産食材離れ」は急速に進んだ。飲食店の多くが「国産を使っている」「国産に切り替えた」と声高にうたい始めたが、実際は一部商品で、コスト面から中国産の安価な冷凍カット野菜の使用を続けているところが少なくない。大量消費をするチェーン店なら、なおさらだ。しかも、金融危機による景気後退の影響は外食産業に重くのしかかっている。質は良くてもコスト高の国産にこだわれば、利益を圧迫しかねない。
野菜国産化で成功再登板直後の
大胆戦略の裏側
「自分で定年制度を決めたので、社長に戻ろうなんて全く考えていなかった。でも、08年8月中間期に純損益が赤字に転落した段階で、この会社をきちんと後につないでいかなきゃいかんと強く思うようになったんです。誰に嫌われようが、周囲から何を言われようが、もう一度、自分でやらなければ悔いが残ると思ったんですよ」。
それでも米の考えは揺るがなかった。というのも、米は社長を退き、一時日本フードサービス協会の会長を務めていた。そのとき、多くの地方の農家から国産野菜を紹介される機会に恵まれ、国産野菜のおいしさに改めて驚かされた。そして、何とか利用できないかと思い続けていたからだ。
「何より、兄貴たちと始めたこの商売がどうしてここまで大きくなったのかと考えたら簡単な話。当初は、国産野菜のみで新鮮な野菜を使い、とにかく“おいしい”ちゃんぽんをお客様に提供してきた」。だったら、もう1回原点に返ってやればいい。もちろんコストや供給面など、不安要素を数えたらキリがない。「でもね、ごちゃごちゃ言っていないで、とにかくやってみようや、と。こんなときのためのワンマンなんだから、聞く耳は持ちませんでした(笑)」。
こんなときだからこそ
何か前向きな取り組みを始めよう
コストアップ対策はどうするか。米はシミュレーションを繰り返し、結局、ちゃんぽん1杯当たりの野菜の量を230gから255gに増量しつつ、価格を40円から100円値上げすることにした。不況の時代に逆流する動きだ。東日本地区の場合、長崎ちゃんぽんは450円から500円となる。
「国内で収穫した野菜をそのまま自社工場に搬入しカットしたものを炒めたのと、一度ゆでてから急速冷凍した輸入のカット野菜を炒めたものとは、食べたときのシャキシャキ感がまるで違う。国産の野菜で作るちゃんぽんは『安心して食べられる』だけが売りではなく、実際においしいんです」。
野菜の変更と同時に、野菜480gをふんだんに使った「野菜たっぷりちゃんぽん」を新たにメニューに加えたほか、スープも改良。合成着色料や保存料を使わず、塩分を以前に比べ10%下げるなど、「健康的で、体に良いちゃんぽん」というイメージを強く打ち出すようなメニュー変更も実施した。
なかでも、調達に苦労したのがオランダさやえんどうだ。いざ調べてみるとリンガーハットでの年間使用量220tに対し、オランダさやえんどうの国内年間生産量はわずか50t。それでも、米はこれに代わる食材はないと判断。使用をあきらめるでもなく、量を減らすのでもなく、新たに作ることに挑戦してくれる生産者を探し出し、大量生産の契約にこぎつけた。
今回の計画に伴って契約した産地は、最終的に北海道から九州まで15道県、約40産地に上った。「 野菜国産化を決めてからわずか1年足らずで、餃子の具からちゃんぽんに添えるショウガドレッシングに至るまで、すべての野菜を国産化できたのは、生産者の皆さんのおかげです」と米は振り返る。
非常時は超ワンマンでいい
迷わず行けーってね
米の予感は的中し、野菜を国産化して以降、客数、売り上げはともに月次ベースで10%以上上昇し、客単価も40円アップ。原材料費の上昇分は客単価のアップで吸収できた。最近は、不況のため消費者が中国産をためらわず買う「中国戻り」現象がしばしば報道される。しかし、「数十円の安さ」より「国産に対する安心感」「国産のおいしさ」をお客が選択したのは明らかだった。
「でも、僕は国産化をやりたい。確かに費用はかさむけど、そんな一本気な会社があってもいいんじゃないかって思うんです。小麦を国産化したからといって売り上げが上がるかどうか分かりませんよ。僕は決断に迷ったらいつも『おれは運がいいんだ』と自分に言い聞かせるんです。ちょうど今、神様が自分の上にいて『あっちに行きなさい』と指示してくれていると思い込むんですね。そうでも思わないと、経営なんてやっとれんですよ(笑)」。
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